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聖歌は生歌

聖歌は生歌

復活の聖なる徹夜祭 ことばの典礼

【第二部 ことばの典礼】
 復活徹夜祭のことばの典礼では、旧約聖書から7つ、新約聖書からは、パウロの書簡と、福音書が朗読されます。
このうち、旧約聖書は第三朗読の出エジプト記を必ず読まなければなりませんが、できる限りその他にも二つ、都合
三つの朗読をするように勧められています。第一朗読には、短い形(創世記1:1、26~31 人類の創造)と長い形
(創世記1:1~2:2 世界の創造)の二つがあり、それぞれ、固有の答唱詩編があります。
 
《第一朗読(短いほう)後の答唱詩編》
 46 神の注がれる目は
【解説】
 その詩編の18節から答唱句が取られている、詩編33は、創造主、救い主である神をたたえる賛美の詩編です。6
節の「星座」(ヘブライ語の原文では「軍勢」)は、天にいる神の軍隊のことで、神の栄光を示し、その命令を実行する
ものです。6節には、「神(原文では「主」)」の他に、「ことば」「いぶき」という語句があることから、教父たちは、「こと
ば」=神のことばであるキリスト(ヨハネ1:1)、「いぶき」=聖霊、と考え、この詩編には三位一体の秘義が隠されて
いると考えました。
 答唱句は8小節と比較的長いものです。前半は「神」と言うことばが三回出てくることや、神のやさしいまなざし=
「目」を強調するために、旋律は高い音が中心となっています。特に、「目」は最高音のD(レ)の二分音符で歌われ
ます。二回出てくる八分休符は、次の「神」の「か」をアルシスとして生かすためのものですが、バスは八分休符では
なく四分音符で歌われ、どちらも精神を持続させながら緊張感を保ちます。
 後半の「希望を」では、「きぼう」で旋律とバスの音程が2オクターブ+3度開き、バスのオクターヴの跳躍で、ことば
が強調されています。
 詩編唱はドミナント(属音)から始まり、同じ音で終止し、下一音(Fis=ファ♯)以外はすべて上方音というところは、
グレゴリオ聖歌の手法が生かされています。答唱句、詩編唱ともに、最後は順次進行で下降し、落ち着いて終止し
ています。
【祈りの注意】
 解説に書いたように、答唱句は8小節と比較的長いので、全体に、緊張感を持って歌う必要があります。とは言え、
早く歌う必要もないのですが、間延びすることのないようにしましょう。そのためには、まず、冒頭の「神の」の「の」の
八分音符が遅れないように、言い換えれば「かみ」の四分音符が長すぎないように、と言うことです。最高音D(レ)が
用いられる「目」は、この詩編でも歌われるような、いつくしみに満ちた神のまなざし、十字架の上から、愛する弟子と
母に向けた、キリストのまなざしを表すように歌ってください。高い音なので、どうしても、音を強くぶつけてしまいがち
(「メー」)ですが、そのように歌うと、怒りと憤りに満ちた音になってしまいます。高い棚の上に瓶をそっと置くような感
じで、声を出すようにするとうまく歌えます。
 「ものに」は、アルトが係留を用いているので、やや、rit. しますが、これは、分かるか分からないか程度のもので
す。決して、「あ、リタルダントしたな」と思わせないようにしましょう。後半に入ったら、すぐに、元のテンポに戻しま
す。最後の「希望を」は、少し、テヌートして「希望」をしっかりとこころに刻みましょう。
 最後は、rit. することはもちろんですが、やや、dim. もすると、安心して答唱句の祈りのことばを終わらせることが
できるでしょう。
 答唱句のテンポは「四分音符=88くらい」ですが、冒頭は、これよりやや早めのほうがよいかもしれません。
答唱詩編の前の旧約朗読は、創世記の天地創造の場面です。ここでのキーワードは、1章31節のことば、「神はお
造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった」ではないかと思います。本来、神が造られ
たものは、このように「極めて良い」存在なのです。ですから、神は、今もいつも、造られたものすべてに目を注いでお
られ、わたしたちを愛されておられ、今でも、神は、創造のわざを続けられておられるのです。つまり、神は、造られた
ものを放っておかれるのではなく、歴史の完成、神の国が完成されるときまで、愛といつくしみを持って、心にかけて
おられるのです。第一朗読とこの詩編を味わいながら、今もいつも、神は、わたしたち一人ひとり、そして、造られたも
のすべてに心をかけておられることをもう一度思い起こし、わたしたちの存在を感謝し、神の国の完成のために働く恵
みを願いたいものです。
【オルガン】
 答唱句は、どちらかと言うと、やや、明るいストップを用いたいものです。弱いものなら、プリンチパル系の8’を入れ
たり、人数によってはフルート系で2’を入れてもいいかと思いますが、あくまでも答唱詩編なので、派手なものは避
けるようにしましょう。この答唱句が復活徹夜祭のことばの典礼の最初の答唱詩編ですので、オルガン奉仕者は、そ
れまでの光の祭儀から、きちんと気持ちを切り替えるようにしましょう。ただ単に、だらだらと弾いていると、それは、
いつの間にか会衆にも伝わってゆくものです。前奏には、特に、心配りをしましょう。そのためにも、準備の段階から、
第一朗読も十分に味わっておくことが必要だと思います。練習の時には、第一朗読も含め、前奏までも間合いもしっ
かりと練習しておきましょう。

《第一朗読(長いほう)後の答唱詩編》
 68 神よあなたのいぶきを
 「解説」と答唱句共通の「祈りの注意」および「オルガン」は、主の昇天と聖霊降臨の答唱詩編 の 69 神よあな
たのいぶきを を参照してください。
【祈りの注意】
 神は、ご自身の造られたものを見て、「良しとされ」ます。とりわけ、ご自分の息吹を注ぎ込まれた人類を創造され
た後には、祝福を与えます。また、第7日目には創造の仕事を離れて安息され、この日を祝福し、聖別されました。
神は、ご自身の造られたものを愛され、いつもいつくしみを注がれておられます。この、創造のわざは、かつて、何ら
かの形で、あるとき、ただ一度のものではありません。今も、神は、創造を継続しておられるのです。それゆえに、新
しいいのちも生まれるのではないでしょうか。わたしたちのうちに、今も、いつも、神のいぶきが注がれ、絶えず、新た
にされるように、この、詩編を味わいたいものです。

 《第二朗読後の答唱詩編》
 98 しあわせな人
【解説】
 詩編16は、元来、カナンからイスラエルに移り住んだ人が、改宗して行った、信仰告白と思われます。詩編作者
は、主である神との一致は、死よりも強いと感じ、まことの神との一致にこそ、しあわせと永遠のいのちがあると確信
した美しい歌です。死に打ち勝ち、復活したキリストの父との一致こそ、この、永遠のいのちをもたらすものに他なりま
せん。それゆえ、使徒たちは、この詩編を、詩編118(87「きょうこそ神が造られた日」)と同様に、キリストの復活の
あかし・預言として用いました(使徒2:21-33参照)。
 答唱句は、冒頭から、5小節目の「喜びに」までは、八分音符の細かい動きと、四分音符+付点四分音符と八分音
符(2小節目のバスとアルト、4小節目のテノールとアルト)のリズムで、神の豊かな恵みを受ける人の、しあわせな
こころの喜びを、活き活きと表現しています。最後の3小節は、付点二分音符や二分音符という、長い音価の音符を
使って、この恵みに生きる安心感が表されています。さらに、「喜びに」では、旋律で、最高音のE(ミ)が用いられて、
強調されています。
 詩編唱は、最終音の2度上(一音上)のH(シ)から始まり、歌い始めやすくなっています。そして、次第に下降し、E
(ミ)に至りますが、この音は、答唱句の冒頭の音と同じです。なお、詩編唱の最後の和音は、E(ミ)-Gis(ソ)-H
(シ)ですが、これは、和音の位置こそ違いますが、答唱句の最初の和音と同じです。ちなみに、この曲はA-Dur(イ
長調)ですが、この和音は、主和音ではなく、五度の和音です。答唱句が、主和音ではなく、五度の和音から始める
ことで、次の「しあわせな」に向かう、勢いを付けているのです。
【祈りの注意】
 上にも書いたように、冒頭は、勢いを付けて歌われ始めます。最初の「し」は、マルカート気味で歌います。冒頭の
速度指定は、四分音符=112くらいとなっていますが、最初は、これよりもかなり早いテンポで歌い始めます。そう
しないと、答唱句の活き活きとした感じを出すことができません。この、速度は、答唱句の終わりの rit. したテンポと
考えてよいと思います。付点四分音符や四分音符の後の八分音符、すなわち「しあわせ」や「しあわせな」、「かみ
の」、「そのよろこび」(いずれも赤字の音)が遅くなると、どんどんテンポが落ちてゆきますので、注意しましょう。な
お、続く、連続する八分音符もきびきびと歌ってください。
 「ひと」や「受け」の付点二分音符で旋律が音を延ばしているところは、しっかりと音を延ばし、一瞬で息継ぎをして、
次の四分音符を歌うようにします。この延ばしている間に、「ひと」では、バスとアルトが、「受け」では、テノールとア
ルトが遅れてこのことばを歌います。ここでしっかりと延ばすことで、ひとまとまりの文章である、答唱句がひとつの祈
りとして継続されますが、早く音が切れると、この祈りが続かなくなります。答唱句の後半は「喜びに」から、徐々に
rit. して終わりますが、いつ、rit. が始まったか分からないようにできれば、最高です。一番最後の答唱句(歌い終
わり)は、最も、ていねいに rit. しましょう。
 ところで、この答唱句で歌われる、「しあわせな人」とは、だれでしょうか?実は、この答唱句を歌う、わたしたち、一
人ひとりがしあわせな人なのです。わたしたち一人ひとりが「神の恵みを受け、その喜びに生き」ているのでなけれ
ば、この答唱句が活き活きと歌われないのではないでしょうか?
 詩編唱は、1、2、5節が歌われます。まず、技術的な注意ですが、答唱句が小気味よいテンポで歌われますから、
詩編唱も、早めに歌いましょう。1節の1小節目と、2節の2小節目、5節の2小節目は、少し歌詞が長いので、「ゆず
り」、「おられ」、「喜び」の後で息継ぎをします。息継ぎをするときは、その、少し前に、やや、rit. して、一瞬で息継ぎ
をし、再び、元のテンポに戻して歌います。
 第二朗読では、アブラハムが息子イサクを、神へのいけにえとして献げようとする箇所が朗読されます。アブラハム
にとって、その時は一人息子であったイサクを神へのいけにえとして献げることは、自分が死ぬよりもつらいことだっ
たと思います。それでも、そのことばに従ったアブラハムの信仰をよしとされた神は、アブラハムに次のように言いま
す。「地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。」わたしたちは、この、ことばのとおり、キリストの
死と復活に結ばれることで、大きな祝福のうちに生きることができるようになりました。イサクが死から逃れたのは、
いけにえによる死からでしたが、キリストは、かえって、十字架上のいけにえによって、死を打ち砕き、復活によって、
新たないのちを受けられました。わたしたちもキリストに結ばれたものとして、この、詩編のことばがわたしたち自身に
も当てはめられていることをもう一度思い起こし、この喜びの中に、生きるように、祈りたいものです。
【オルガン】
 答唱句のことばやテンポを考えると、人数にもよりますが、明るいストップを用いてもよいと思います。フルート系が
中心ならば、8’+4’+2’、プリンチパル系を入れるなら、いずれか一つに入れるようにしてもよいでしょう。もちろ
ん、あまり、派手にならないようにしますが、かと言って、弱すぎて、会衆の答唱句が活き活きしないようでも困りま
す。また、前奏がきびきびとしていないと、会衆もだらだらと答唱句を歌いだすことになりますから、あまり早すぎるの
も困りますが、実際に歌うより、いくぶん早めに前奏をとることが必要かもしれません。最初にも書いたように、この、
復活の喜びを表す詩編を、その、喜びにふさわしい祈りとして支えることができるようにすることが、大切でしょう。


 《第三朗読後の答唱詩編》
 79 神よあなたはわたしに力
【解説】
 復活徹夜祭の旧約朗読のうち、この、第三朗読=出エジプト記の朗読は、旧約における主の過越の記念であり、
紅海の出来事は、洗礼のかたどりであることから、他の旧約朗読を省いても、必ず朗読しなければならないもので
す。この出エジプト記の朗読によって、わたしたちは、毎年、神が「旧約の奇跡の意味を新約の光で解きあかし、紅
海が洗礼の泉のかたどり、解放された民はキリスト信者の姿を表すことを教えて」(第三祈願)くださったことを思い起
こします。
 「モーセとイスラエルの民は主を賛美してうたった」(出エジプト記15:1)この「海の歌」は21節にある「ミリアムの
歌」が発端(原型)といわれていますが、それは、「ミリアムの歌」にはない、後の出来事であるカナン入国について
の記述が「海の歌」にあることからも分かると思います。この歌は、現代でもユダヤ教の過越祭で歌われますが、新
約の民であるわたしたちも、キリストの過越を記念する、一年の典礼の頂点であるこの復活徹夜祭に旧約における
洗礼のかたどり、としてこの出エジプト記の朗読の後に歌います。なお、直接ではありませんが、「海の歌」をもととし
た歌については、黙示録の中にも七人の天使が「神の僕モーセの歌と小羊の歌をうたった」(15:3-4)と記されて
いて、この歌は、古くから、キリストの過越と結び付けられていたと考えられます。
 答唱句は八分音符を中心にして歌われますが、「ちから」と「まもり」は四分音符で歌われ、特に「まもり」は最高音
のB(シ♭)となり、神の力と守りが強調されます。最後の「すくい」では、二分音符と二重の係留〔アルトのC(ド)とテ
ノールのG(ソ)〕によってもっとも重要な信仰告白のことばが強められています。
 「海の歌」の本文は、ドミナントのF(ファ)、和音ももっとも基本の位置の和音から始まります。この和音は、さらに、二小節目
が六の和音、三小節目が四の和音の基本形で歌われ、最後は五の和音で終止します。ここだけは、答唱句と同じように係留音〔テノール
のB(シ♭)〕が用いられ、最後の動詞への意識を高めています。また、旋律の最後の音は、最高音のC(ド)が用い
られ、「海の歌」本文の締めくくりにふさわしい力強さをもたらしています。
【祈りの注意】
 この答唱詩編は、第三朗読の最後が、「モーセとイスラエルの民は主を賛美して歌をうたった」と終わって、出エジ
プト記本文でも、すぐにこの歌に続くので、通常のミサの答唱詩編と異なり、なるべく間髪をいれずに、オルガンの前
奏か先唱者の先唱を行いたいものです。答唱句も、この、朗読の最後のことばを受けてにふさわしい、力強い賛美の
声にしましょう。テンポの指定は、四分音符=76くらいとなっていますが、もう少し早くてもよいでしょう。むしろ、遅
く、だらだらと歌って、せっかく、モーセとイスラエルの民が主を賛美して歌った歌を、ぶち壊しにしないようにしてくだ
さい。繰り返しも、きちんと最初のテンポで歌いだすことを忘れないようにしてください。ただし、最後の答唱句だけ
は、rit. を豊かにして堂々とおさめましょう。
 先唱も、通常の答唱詩編と違って、この「海の歌」本文が、民の賛美の声ですから、できれば男声の荘重な祈りで
黙想したいものです。「海の歌」本文は、途中、小節毎の rit. はあまり行わず、4小節、テンポを落とさずにこの出来
事を力強く会衆に語りかけてください。そして、最後だけ、 rit. をかけて、答唱句へと戻ります。最後のことばは、特
に、最高音にふさわしい力強い f ないしは ff にしましょう。2の最初の小節、「ヤーウェ」は、「主」に直すことも忘
れないようにしてください。
【オルガン】
 この答唱詩編も、復活賛歌同様にペダルも含めた力強いストップを使いたいものです。「海の歌」本文は、先唱者
が男声か女声かによってストップを変えてみてください。女声の時は、フルート系の8’あるいは8’+4’でよいでしょ
うが、男声ならばプリンチパル系の8’を用いてもよいかもしれません。最後の答唱句は、さらにストップを加えたり、
強すぎるようでしたら、シュヴェル(Swell)を主鍵盤とペダルにそれぞれコッペル(カプラー)して下ろすのも方法で
す。いずれにしても、復活徹夜祭の「海の歌」にふさわしい伴奏を考えてください。

《第四朗読後の答唱詩編》
 65 神はわたしを救われる
【解説】
 詩編30は瀕死の人が重病から救われたことを感謝する詩編です。死は「死の国(よみ)、墓(穴)、滅び、ちり、嘆
き、荒ら布」などと表現され、いのち(=神の)は「喜び、恵み、踊り、晴れ着」ということばで対照的にたとえられてい
て、神による救いが強調されています。この答唱詩編では歌われませんが、5節では、詩編作者が自らの喜びを、
人々にも一緒に歌うように促します(「神を信じる人は神をたたえ、とうといその名をほめ歌え」)。死から救われ
て神の救いにあずかることは、個人的なことだけにはとどまらず、共同体的な喜びへと広がってゆくものなのです。
 答唱句は、珍しくテージス(小節線の後ろ)から始まります。旋律の音は、G(ソ)、A(ラ)、C(ド)の三つの音で、そ
の他の声部の音も大変少ない音で構成されています。文末以外は、ほとんどが八分音符で、「すくーわれる」と「た
たーえよう」で四分音符が用いられて、ことばが強調されています。とりわけ「たたえよう」では、アルトのAs(ラ♭)と
テノールの最高音E(ミ)で、信仰告白のことばが高められています。さらに、テノールは冒頭から「いつくしみ」までC
(ド)が持続して、神への信頼と救いの確信が表されています。
 詩編唱は、3小節目でバスに臨時記号が使われ(Fis=ファ♯)、緊張感が高められますが、4小節目は5の和音で
終止し、旋律も答唱句の冒頭と同じ音になり、落ち着いて終わります。
【祈りの注意】
 冒頭は、指定の速度の、四分音符=72よりやや早めで始めるとよいでしょう。八分音符が連続しますので、メトロ
ノームで計ったように歌うと、歌はもちろん祈りになりません。このようなたとえがふさわしいかどうか分かりません
が、ところてんを作る道具で、最初に、一気に押し出すような、そんな感じではじめるとよいでしょう。2小節目の「救
われる」でやや rit. しますので、「わたしを」くらいから、わからない程度にゆっくりし始めます。「その」のバスが八分
音符一拍早く始まるところで、テンポを元に戻します。最後の「いつくしみを」から、再びわからないように rit. して、
最後はていねいに終わります。最後の「たたえよう」は、こころから神をたたえて、祈りを神のもとに挙げるようにした
いものです。
 この答唱句は、「神はわたしを救われる」と現在形になっています。神の救いのわざ(仕事)は、かつて行われて終
わってしまったのでもなく、いずれ行われるのでそれまで待たなければならないものでもありません。神の救いは、今
も、継続して行われています。その、顕著なものが、やはりミサではないでしょうか。ミサは、キリストの生涯の出来
事を思い起こす福音朗読と、その救いの頂点である受難-復活-昇天を記念=そのときその場に現在化するもので
す。このミサが、世界のどこかで、必ず継続して行われている。それを、この答唱詩編は思い起こさせてくれます。そ
のことを思い起こしながらこの答唱句を歌うことが、祈りを深め、ことばを生かすことになると思います。
 イザヤの預言は、バビロンにおける解放の預言です。バビロン捕囚は、イスラエルの民、特に指導者たちが、主で
ある神から離れ、その教えに従わなかったことが原因です。確かに神は、イスラエルの民を見捨てたかのように見え
ましたが、ご自身で、ご自身から結んだ永遠の契約を、反故にすることはしませんでした。それは、イスラエルの民だ
けのことではなく、ノアの洪水で、全人類を祝福されるという約束を、主キリストを通して実現されたのです。さらに、
キリストの過越は、「アダムの罪の負債を返し、その重荷を解いて」(復活賛歌)くださるものでした。第三朗読で読ま
れた、エジプトからの解放、紅海の出来事は、新約の民の姿と洗礼の泉をかたどります(第三朗読後の祈願)が、こ
の、第四朗読と答唱詩編で、さらに、キリストの過越に対する思いが深まるのです。
【オルガン】
 前奏のとり方が、答唱句を生かすか殺すかの分かれ目となります。単調にのっぺらぼうのように弾かないこと、ま
た、ソプラノの音はしっかりと刻み、一つひとつのことばを生かすとともに、全体の祈りの流れをも深めるようなものとし
ましょう。ストップはフルート系の8’+4’(ないし+2’)で、明るいストップを用いるとよいでしょうか。とは言え、派手
になり過ぎないように気をつけてください。音の動きが少ない分、単調になると、ことばも生かされず、祈りも深まりま
せん。音の変わり目、特に、バスの音の変わるところが、キーポイントとなるでしょう。


 《第五朗読後の答唱詩編》
 164 喜びに心をはずませ
【解説】
 答唱句もここから取られているイザヤ書の12章の3節は、有名なフォークダンス「マイム・マイム」(マイーム・ベサソ
ン=喜びをもって水を)の元となった箇所です。イザヤの12章は、ユダとエルサレムに関する預言の最後の部分で
す。11:11-16で、出エジプトの出来事が思い起こされ、12:1-6の救いに感謝する歌の導入となっています。さ
らに、この12:1-6は、出エジプト記の「海の歌」(15:1-1)にある、神が「住まいとして自ら造られた所、御手に
よって建てられた聖所」(15:17)の成就となっています。
 答唱句は八分音符や十六分音符などの細かい音符を多く用いて、大きな喜びを持って歌われます。「よろびに」
は、各音節が異なる音価で歌われ、旋律も一気に最高音C(ド)に上昇し、喜びの心を高めています。「こころ」と「すく
い」は付点八分音符+十六分音符のリズムで、これらにはさまれた動詞「はずませ」の心の躍動感を促しています。
「はずませ」の旋律はA(ラ)とG(ソ)を反復し、バス(太字)ではH(シ)=を用いて転調することで、ことばを生かして
いますし、この躍動感がさらに活き活きとしてくるのです。
 「すくい」では、旋律が6度跳躍し、キリストによる尽きることのない泉に象徴される神の救いの豊かさ(ヨハネ4:7
-15)が表されています。最後は、旋律が低音部で歌われ、この尽きることのない泉から水を汲む、わたしたちの姿
勢が暗示されます。
 詩編唱は、数少ない2小節からなるものの一つで、旋律も和音も複雑ではありませんが、逆にそれが、歌われるこ
とばの多さを生かすもの、となっています。
 この第五朗読は、洗礼の恵みを表すもので、第五朗読が読まれなかった場合で、洗礼式がある場合には、第七朗
読のあとにこの答唱詩編を歌うように勧められています。それほど、この答唱詩編は、洗礼の恵みを先取りするもの
と考えられるのです。
 【祈りの注意】
 答唱句は、十六分音符の活き活きした動きを生かして歌いましょう。「はずませ」のA(ラ)とG(ソ)を反復は、ややマ
ルカート気味にするとよいかもしれませんが、はっきりしたマルカートではやりすぎですので、そこまでにはならない程
度にします。「はずませ」のあとは、息をしますので、この前で、ほんのわずかですが rit. し、「せ」の八分音符は、テ
ージスの休息を生かし、そっと置くように歌います。そして、その八分音符の中で、すばやく息を吸って、先を続けま
す。「神の み旨を行うことは」「神よ あなたはわたしのちから」などの答唱句も同様です。最後は、「救いの泉から水
を汲」んでいるように、静かに rit. してゆき、落ち着いて終わりましょう。特に、最後の答唱句は、この rit. をより豊
かにすることで、品位ある歌い方になります。
 詩編唱は洗礼によって与えられる、救いの喜びを思い起こしながら先唱してください。詩編唱の1節、および2節と3
節の2小節目は、音節(ことば)が多いので、早めに歌います。そうしないと、答唱句とのバランスが取れないからで
す。なお、「民に伝え」の後で、息継ぎをしてもよいでしょう。その場合、「民に」くらいから rit. して、一瞬で息をし、
「その名」に入ったらすぐにもとの速さに戻します。

1節は、神の救いに信頼した、確固とした決意を持って
2節と3節はその救いを世界に伝えることを、すべての神の民に呼びかけるように

歌いましょう。
 第五朗読の冒頭の部分では、ヨハネによる福音の、有名な「サマリアの女とイエスの対話」の箇所が連想されま
す。また、中間の6-7節は、四旬節の入祭の歌 311 神を求めよ の箇所です。四旬節の間、洗礼志願者が準
備してきた、キリストへの歩みは、洗礼によって新たなスタートをきることになります。それは、洗礼による恵みの喜び
を、すべての民に、のべ伝えることです。わたしたち、洗礼を受けているすべてのキリスト者も、神がこの夜、成し遂げ
てくださる不思議なわざに感謝し、ともに、その救いの喜びを世界に伝えてゆけるように、この、詩編を深めたいもの
です。
【オルガン】
 ゆったりしたテンポですが、大いなる喜びを表すような伴奏を心がけましょう。ストップも、フルート系で8’+4’+2’
 あるいは、8’+2’という組み合わせも、ことばを生かすものになるかもしれません。技術的には、十六分音符をき
れいに弾けるようにしましょう。二つのうち、前のほうが短く(三十二分音符+付点十六分音符のように)なると、祈り
がだいなしになってしまいます。簡単な曲と思うかもしれませんが、一度は必ず、テンポを落として、しっかりと練習す
るように心がけてください。それは、曲をきれいに弾くためだけではなく、祈りを、ことばを、ふさわしいものにしてゆく
ためだからです。

《第六朗読後の答唱詩編》
 124 主よあなたは永遠のことば
【解説】
 詩編19は、前半と後半ではその性格が全く異なります。前半は、天空、特に太陽の動きを通して、神の栄光をた
たえています(147「天は神の栄光を語り」で歌われる)。それに対して、後半では、教え・さとし(トーラー=律法)を
与えてくださった神に栄光を帰しています。この、後半部分は詩編119(125で歌われる)と似ています。そして、最
後は、その教えを守ることができるようにとの祈りで結ばれています。
 答唱句は、非常に複雑な和音で進んでゆきます。冒頭は、2♭の長音階、B-Dur(変ロ長調)の主和音で始まりま
すが、これは、最初のアルシスだけです。最後は、バスからC(ド)-G(ソ)-Es(ミ♭)-C(ド)の和音で終わること
から、教会旋法の第一旋法に近いと言えるでしょう。前半はバスが音階進行で動き、とりわけ「永遠の」では、バスと
アルトで臨時記号が使われた半音階の進行で、こころを「永遠」に向けさせます。後半では、バスが第三小節でG
(ソ)、第四小節でC(ド)を持続し、旋律は、最高音のC(ド)となり、この信仰告白の体言止のことばを力強く終わら
せます。
 詩編唱は、ドミナント(属音)のGを中心にして動きます。
 なお、この詩編19を歌う124の場合は、詩編唱の1小節目と3小節目の、最後の四分音符と八分休符(オルガン
では付点四分音符)および小節線を省き、1小節目の全音符から2小節目の全音符、3小節目の全音符から4小節
目の全音符へと、それぞれ続けて歌います。1小節目と3小節目にある最後のことばも、すべて、八分音符で歌い
ます。
 詩編の1節を例に挙げると、以下のようになります。赤の太字は、音が変わるところです。

かみのおしえはかんぜんでたましいをいきかえらせー*|
 そのさとしはかわらずこころにちえをもたらすー*
 となります。
【祈りの注意】
 答唱句のことばは、《ガリラヤの危機》の後のペトロの信仰告白のことば(ヨハネ6:68)です。最初の「主よ」の後
の八分休符は、次の「あ」のアルシスを生かすものです。「よ」が惰性で伸びないようにし、オルガンの伴奏が一足早
く変わるのを味わえると、「あ」のアルシスがより生きると思います。ペトロの信仰告白のことば「あなたは永遠のいの
ちのことばを持っておられます」の次には、「あなたこそ神の聖者であると、わたしたちは信じ、また知っています」と
あります。この、答唱句のことばも、ただ単に「ラビの一人として」「ユダヤの賢者として」ということではなく、神の聖者
としてあなたこそ永遠のいのちのことばをもっておられる、という意味合いになるのではないでしょか。
 「あなたは~」のところを、メトロノームで、はかったように歌うと、ことばを棒読みしているように聞こえます。四声の
場合は、アルトは特にレガートをこころがけましょう。一連の八分音符を、やや早めの気持ちで歌うと、「あなたこそ」と
いう確信に迫る祈りになるのではないでしょうか。「ことーーーば」の部分、特に、アルトの動きは、最後の rit. を促
すものです。オルガン伴奏だけのときも、この音の動きをよく味わい、オルガニストは、祈りを込めて弾きたいもので
す。この答唱句を歌うとき、ペトロと同じように、キリストに従う決意を新たにしたいものです。
 バルクの預言では、特に後半、「知恵」について語られます。とりわけ、3:38では「知恵は地上に現れ、人々の中
に住んだ」と言われます。この「知恵」は、まさしく、キリストに他なりません。続く4:1では「知恵は神の命令の書、永
遠に続く律法である」と語られます。マタイによる福音では、「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と
思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである。」とキリストは言われました。「律法や預言者」と
は、聖書(旧約聖書)を指すことばです。また、「完成するため」とは、聖書について正しい解釈をすることを意味しま
す。さらに、申命記8:3には「人は主の口から出るすべての言葉によって生きる」という、ことばをも思い起こしましょ
う。神の「知恵」であるキリストを知ること、そのことばに聞き従うことは、まさしく「神の御心に適うこと」(バルク4:4)
なのです。バルクの預言に耳を傾け、この答唱詩編を味わうことで、もう一度、「永遠のいのちのことば」キリストに従
う決意を新たにしたいものです。
【オルガン】
 詩編のことばを豊かに味わい、黙想しますから、できるだけ、深みのある伴奏を心がけましょう。ストップ構成は、基
本的に、フルート系の8’+4’にします。ペダルの16’は、あまり、強いものは用いないほうがよいと思います。前奏
のとき、上の、テンポの注意を同じように、こころがけてください。音階と半音で動くアルトを、祈りにふさわしくレガート
で弾くことも、祈りを支えるために重要です。

《第七朗読後の答唱詩編=洗礼式のある場合》
 第七朗読のエゼキエルの預言が朗読され、洗礼式がある場合は、この 7 あなたのいぶきを受けて が歌われ
ます。なお、第五朗読が行なわれなかった場合には、164 喜びに心をはずませ を歌うこともできます。
 7 あなたのいぶきを受けて
 詩編の表題の1・2節には、「ダビデの詩。ダビデがバト・シェバと通じたので預言者ナタンがダビデのもとに来たと
き」(サムエル記下11:1~12:15参照)と記されていて、旧約時代以来、ダビデの歌とされていますが、実際にダ
ビデが歌ったかどうかは定かではありません。回心の七つの詩編の一つで(他に詩編6、32、38、102、130、14
3)、神に赦しを願い、罪からの清めと神のいぶき(聖霊)による聖化を求め、典礼(神殿祭儀)での感謝と賛美を神に
約束します。
 答唱句の旋律は、冒頭、最高音部から始まり、「あなたのいぶき」すなわち神のいぶき=聖霊を願い、それが、天
から降り、与えられる様子が表現されます。また、アルトとバスは主音のEs(ミ♭)を持続し、神へのゆるぎない信頼
と、回心の強い決意が表されています。後半は、同じ音の動きが3度下のG(ソ)から始まり、わたしたちが新たにさ
れることが、とりわけ「あたらしく」のバスで最低音を用いることで、謙虚に示されています。
 詩編唱和は、旋律の終止音であり、また、最低音でもあるEs(ミ♭)から始まり、2小節目の後半はAs(ラ♭)、4小
節目の最後はB(シ♭)というように、嘆願のことば、あるいは、信仰告白のことばが歌われる部分で、前半、後半、
それぞれの最高音を用いることで、ことばを強調し、叫びを高めています。

【祈りの注意】
 答唱句の指定速度は、四分音符=63くらい、ですから、それほど早くも遅くもない速度です。ことばの持つニュアン
スから言うと、「荘重に」歌うようにしたいものです。特に、後半は、静かで謙虚なこころの中にも、荘厳さがあるとよい
でしょうか。答唱句は、それぞれの詩編唱に対して、こころから「あなた(神)のいぶき(=聖霊)を受けて、わたしは新
しくなる」ことを、言い表しましょう。バスの下降もこれらを助けています。
 詩編唱は、上にも書いたように、答唱句の終止音で、かつ、最低音であるEs(ミ♭)から始まります。最初は、こころ
の深みから、詩編で歌われる回心のことばを、神に告白しましょう。音の強さとしては、mp から始めるのがよいと思
いますが、それは、あくまでも音量であって、告白するこころは真剣な力強いものとなるのは、言うまでもありません。
このことばは、詩編を歌う人、個人のことばであるばかりではなく、その共同体、そのミサに参加するすべてに人のこ
ころを言い表しているものでもあることを、忘れないようにしたいものです。2小節目の後半と4小節目の最後には、上
にも書いたように、神への嘆願のことば、信仰告白のことばが歌われますが、ここは、「あなたのいぶきを受けて、新
しく」されたわたしたち一人ひとりの持つ、神へのゆるぎない信頼を込めて神に呼びかけてください。
 全体は、4小節しかありませんので、ともすれば、棒読みのようになりかねません。冒頭は、神のいぶきが降りてく
るように、やや、早めに歌い始めます。特に、「あなた」の「あ」のアルシスを生かすと、効果が高まります。「を受け
て」では、やや rit. して、神のいぶきを受けたこころの平安をあらわすとともに、後半のことばに備えます。「わたし」
に入る八分休符で、テンポを元に戻し、最後は、ていねいに治め、神によって新しくされたことを感謝しましょう。な
お、後半の「わたし」もアルシスをしっかりと生かすことは言うまでもありません。
 第七朗読で読まれる、エゼキエルの預言では「わたしが清い水をお前たちの上に降りかけるとき、お前たちは清め
られる」(36:25)。「わたしはお前たちに新しい心を与え、お前たちの中に新しい霊を置く」(36:26)など、洗礼の
秘跡を意味するようなことばが出てきます。詩編51は、まさに、この朗読を黙想するのにふさわしい詩編と言えるの
ではないでしょうか。答唱句も、朗読にある、清い水が滴る様子、神のいぶき=聖霊が降りてくるような、旋律構造で
あることは、解説のところで書きました。この、朗読と詩編のことばを黙想し、これから洗礼を受ける(その共同体には
いなくても、教会共同体の中で洗礼を受ける)洗礼志願者のためにも、自らの洗礼を思い起こし、洗礼志願者とこころ
を一つにした、深い祈りとなるようにしたいものです。
【オルガン】
 洗礼を意識した答唱詩編ですので、明るいストップを用いたいものですが、強すぎては、黙想を妨げます。フルート
系ならば、2’を入れるのも一つの方法でしょうか。三段鍵盤のオルガンなら、ポジティフを主鍵盤につなげて、4’な
いし2’を助けてもらうのもよいでしょう。一番、注意することは、前奏で、最初のアルシスをしっかりとあらわすことと、
答唱句全体の微妙な アゴギーク(速緩法)を表現することの二点です。最初のアルシスは、前奏から答唱句に戻る
ときのタイミングと、最後の和音の切り方にかかります。この、タイミングをしっかりと練習しましょう。答唱句全体のア
ゴギーク、特に、「わたし」でテンポを戻すところは、「わ」の前で、バスが八分音符一拍分早く入りますから、この、バ
ス(ペダル)をしっかりと、元のテンポに戻して入れることが大切です。
 伴奏も簡単で、短い答唱句なので、ついつい、練習をおろそかにしがちですが、洗礼式に直結したと言っても過言
ではない、復活徹夜祭では、大切な答唱句ですので、深い祈りに導けるように、答唱句も詩編も、歌いながら、何回
も練習したいものです。
 
《第七朗読後の答唱詩編=洗礼式のない場合》
 144 谷川の水を求めて
 第七朗読が読まれ、洗礼式がない場合には、7 あなたのいぶきを受けて にかわって、この 144 谷川の
水を求めて が歌われます。
【解説】
 ここで歌われる、詩編42は、もともと、次の詩編43と一続きであったと考えられています。というのも、詩編42の6
節および12節と詩編43の5節が、全く同じ繰り返しであり、通常、詩編に付けられている表題が、詩編43にはない
からです。この詩編の作者は、ヘルモン山の近くを流れる、ヨルダン川上流に追放された、祭司あるいはレビ人のよ
うです。そこは、エルサレムの神殿から遠く離れたところ、すなわち、神の元から遠く引き離されたもので、詩編作者
はそれを痛切に嘆きますが、かえって、神をあこがれる気持ちを強めているとも言えます。表題についている「マスキ
ール」は、詩編47:8をもとに、「技巧的な演奏方法」を指していると考えられますが、はっきりした意味は、いまだ持
って不明です。中世、システィナ礼拝堂の歌隊長として活躍した、有名、ピエルルイージ・ダ・パレルトリーナのモテッ
ト、Sicut cervus もこの詩編42がテキストです。
 この曲は、『典礼聖歌』では、最も初期のものであり、「分冊」第一集に収められていました。当初、「たにがわの」
のあるとはC(ド)でしたが、合本編集時にF(ファ)に改められました。それは、この答唱句の主題は後半の「神よ、わ
たしはあなたを慕う」であり、前半「鹿のように」までは、従属文であることから、和音の厚みを少なくするため、和音
の第5音である、C(ド)を省略したのです。このことはまた、前半をテノールとバスがハミング(m)で歌われることから
も明らかでしょう。前半の従属文の部分では、「あえぎさまよう」で、旋律に最高音C(ド)が用いられ、ことばが強調さ
れていますが、全体的に、協和音が中心で、落ち着いた響きで歌われます。
 後半では、神へ呼びかける「かみよ」で、最高音C(ド)が用いられ、同時に、旋律とバスも2オクターヴ+3度開き、
「神」ということばが強調されますが、続く「わたし」では、対照的に旋律の最低音D(レ)が用いられ、謙虚に神を慕う
こころを表します。これは、テノールにおいて、「あなた」でFis(ファ♯)が用いられ、半音階の進行で「あなたを」が歌
われることや、他の声部の「を」が四分音符で歌われるのに対して、八分音符でG(ソ)-A(ラ)と上行していることなど
でも、示されています。
 詩編唱は、歌われる節が異なることから、前半に繰り返しが使われる、特殊な形をとっているほか、第1、第2、第
4小節の終止音に先取音があるところでは、伴奏が、前の音のままになっているのも、特徴でしょう。
【祈りの注意】
 第七朗読で読まれるエゼキエルの預言では、最後の段落、25節から28節で、はっきりと、洗礼の予型となること
が、述べられます。洗礼式がある場合には、まもなく受洗する、洗礼志願者のこころを表す、詩編51が歌われます
が、洗礼式がない場合には、すでに洗礼を受けたキリスト者が、それを思い起こし、主の過越しの神秘に固く結ばれ
るようにと、詩編42が歌われるのです。
 解説にも書いたように、答唱句の前半は、従属文で、テノールとバスはハミングで歌われますから、できる限り PP
で、しかしあっさりと歌いましょう。ただし、声とこころの芯はしっかりと固めてください。テンポも、四分音符=58くらい
となっていますが、これより早くなることがないようにしてください。後半の主文、「神よ」からは、音の量を上げて、神
に対する憧れをしっかりと歌い上げましょう。しかし、こちらも、乱暴にならないようにしてください。
 「谷川の水を求めて」、「あえぎさまよう鹿のように」、「わたしはあなたを慕う」は、一息で歌いましょう。「谷川の」、
「さまよう」、「鹿のように」では、音を延ばす間、少しだけ、cresc. すると、祈りが先へ、すなわち主文である後半に
向かって、のびてゆきます。
 全体に PP で歌う答唱句ですが、特に、最後の答唱句は、PPP にまで音の量を絞って、テンポもさらに落として、
この答唱句のことばを生かした深い祈りにしてください。
 詩編唱は、一人ひとりの洗礼を思い起こして歌われます。先唱者の方の中には、幼児洗礼のかたもおられ、自身
の洗礼のことを、覚えていない方もいらっしゃるかもしれませんが、何度か、経験した共同体の洗礼式を思い起こし、
受洗者の喜びを、自らの喜びとして祈りをささげてはいかがでしょうか。キリスト者の入信式である洗礼式が、共同体
の中で行なわれるのは、洗礼を受ける人だけではなく、そこに参加する、共同体のメンバー全員が、その喜びを共有
し、自らの洗礼の追体験とするためなのです。
 この答唱詩編は、復活徹夜祭のこの状況以外には答唱詩編として歌われることはありません。それだけ、洗礼の
秘跡に強く結ばれている答唱詩編なのです。なお、洗礼式があり、詩編51が歌われる場合には、「洗礼の約束の更
新」で、司祭が祝福された水を会衆にふりかける間に歌う、洗礼を記念する歌として歌うことが、勧められています。
【オルガン】
 今までも書いたように、答唱句は、ほとんど PP で歌われますので、ストップもフルート系の8’だけにしましょう。場
合によっては、答唱句を Swell で弾き、詩編を Great で弾いてもよいかもしれません。ペダルは、Swell Box に入っ
ていませんから、調節がききませんが、やはり、差支えがない限り、フルート系の16’を使いたいものです。会衆の
人数に応じて、臨機応変に対応してください。

《アレルヤ唱》
 12 アレルヤ
【解説】
 復活徹夜祭のアレルヤ唱では、復活詩編とも言われる、詩編118が高らかに歌われます。詩編118は、エジプト
のハレル(詩編113~118)の一つで、過越祭の最後に歌われました。福音書の最後の晩さんの終わりに「一同は
賛美の歌をうたってから、オリーブ山へ出かけた」(マタイ26:30)とあるのは、エジプトのハレル、特に、この詩編1
18を指していると言われています。この、詩編118についての詳しい解説は、復活の主日 日中のミサの答唱詩編
 87 きょうこそ神が造られた日 をご覧ください。
 答唱句となっている「アレルヤ」は、グレゴリオ聖歌の時代から、やはり、復活徹夜祭で高らかに歌われてきまし
た。この「アレルヤ」はグレゴリオ聖歌の伝統に従って歌われます。冒頭、司祭が最初の「アレルヤ」を先唱し、すぐに
会衆一同が二回目の「アレルヤ」から続けます。答唱詩編と同じように、各「アレルヤ」の間に、詩編の各節を歌って
ゆきます。
 
【祈りの注意】
 司祭の先唱の後、会衆一同は「アレルヤ」を続けますが、間髪を入れずに「アレルヤ」を続けましょう。また、詩編の
1節以後は、全員で「アレルヤ」を歌いますが、一回目の「アレルヤ」の四分音符、二回目の「アレルヤ」の最後の八
分音符が必要以上に間延びしないように気をつけることが大切です。
 詩編の1節の1小節目、全音符のところは「かみを」と、3音節しかありませんから、ここは、かなりゆっくり目に入っ
てもかまいません。その後、「たたえよう」で基準のテンポにし、すぐに、rit. します。2小節目からは、ことばが多くな
りますから、必ず、基準のテンポで始めます。復活の喜びにあふれた「アレルヤ」が、お墓にとどまったままにならな
いようにしたいものです。さて、この「アレルヤ」は詩編が3つあり、すべて、通して歌うと、かなり長くなりますので、
次のような工夫をすると、さらに活き活きとした「アレルヤ」にできるのではないでしょうか?

 1=全員で歌う場合には、中央通路で二つに別れ、たとえば、朗読台側の会衆が詩編の1節を、反対側の会衆
が詩編の2節を歌い、詩編の3節は全員で歌う。
 2=聖歌隊がいる場合には、聖歌隊が詩編を歌い、その他の会衆が「アレルヤ」を繰り返す。
3=聖歌隊も人数が多い場合には、男声と女声で別れ、1のように分かれて歌う。

 なお、詩編の最後の部分で、音符の下に歌詞が入っていないところは、旋律も伴奏も飛ば(省略)します。
【オルガン】
 司祭が先唱する、一番最初の「アレルヤ」ですが、伴奏を入れるか、司祭のア・カペラにするか、きちんと打ち合わ
せしておきましょう。伴奏を入れる場合には、独唱の伴奏で十分なストップに抑えます。
 会衆の「アレルヤ」からは、復活の喜びにあふれた、賛美の歌声にふさわしいストップにしましょう。プリンチパル系
を中心に、人数に相応の組み合わせにします。
 詩編の部分は、全員で歌うか、会衆が別れるか、聖歌隊が歌うかによって、ストップの選択が異なってきます。
 全員で歌う場合には、「アレルヤ」と同じストップでよいでしょう。
 会衆が二つに分かれる場合には、「アレルヤ」の部分から、高いピッチのストップを一つ減らします。全員で歌う場
合にも、この方法を使うこともできます。
 聖歌隊が、詩編の部分を先唱する場合には、聖歌隊の人数・声量に応じて、ストップを調整します。
 二段鍵盤の場合には、司祭の先唱を、補助鍵盤(シュヴェル)で弾いたあと、詩編のストップに変えます。
 三段鍵盤のオルガンであれば、司祭の先唱をポジティフ、「アレルヤ」を主鍵盤、詩編を補助鍵盤で弾けば、途中
のストップ操作の必要がありません。
 ペダルは、全員で詩編を歌う場合にも「アレルヤ」のところだけにしたほうが、よいと思いますが、ペダルのストップ
や、コッペル(カプラー)の仕方を工夫することで、通して使うこともできるかもしれません。



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